It's Only チラシの裏 ~but I like it

つれづれなるままに書いてます。一番読まれないタイプのブログです。

Can't you see this old boy has been lonely

1円の重み

名古屋で派遣社員の女性(当時31歳)が拉致され現金を強奪された挙げ句に惨殺された事件で判決が下されました。


この事件、被告側弁護士は「特段、残虐性が認められる犯行とは思えない」という意味の弁護を行って来ましたが、確かに、もっとむごい殺され方をした被害者は過去、類挙にいとまがありませんし、また83年のいわゆる「永山基準」により、どんな殺害法であれ、死んだ人間が1人では死刑はあり得ない、というのが「常識」となっておりました。(例外は過去に1件のみ。)


埼玉県桶川駅前で発生したストーカー殺人事件の際にも明るみに出た通り、警察はまず「誰かがケガを負わされたか殺された」もしくは「物が壊された」時しか動きません。(これは一応、上記桶川事件以降「ストーカー規制法」ができ、民事不介入も絶対ではなくなりましたが、まだまだ基本的には旧態依然に見えます。)映画『マルサの女』で、暴力団にわざとコップを割るように仕向け、割った瞬間にマルサの女が、「器物損壊です!警察を呼んでください!」と凛々しく叫ぶシーンがありますが、ああいうテでも使わねば警察には動いてもらえないのが現実です。


また司法も、上述「永山基準」により、「刑の重さは殺した人数による」という、事実上「鉄則」に縛られて来ました。


そんな状況下、私は今回の判決、「良かった」という思いで聞きました。理由は下記2点:


1)殺害された女性は、派遣社員でした。早くにお父上を亡くされ、母子家庭で育ちました。ある日お母上がポツリ、
「お父さんとの約束で、まだ果たせていないのは、家(を建てること)だけだわ……。」
と言ったところ、被害者の女性は優しくほほえんで、頷いていたそうです。惨殺される間際でもウソの暗証番号(2960 [お母上はお嬢さんが語呂合わせ好きだったことから考え、「にくむわ」の意と解釈されています])を言ったのは、命に代えてもお母さんに家を建てさせてあげたい……!という強い思いがあったからでしょう。被害者は、その一心で必死に派遣の仕事を続けていたことは容易に察せられます。
さて、しかし、周知の通り派遣の賃金は極めて低額です。犯行当日、被害者は遅出を命じられ、昼から深夜22時過ぎまで勤務したために帰宅が遅くなり、被害に遭われました。この勤務時間を見ていただいてもお分かりになると思いますが、派遣社員・請負等の労働は、正社員と時間的な差はありません。任される責任の重さや業務内容にも差がない場合が少なくありません。ただ差が大きく開くのは、賃金、福利厚生、雇用の不安定度(政府や一部識者の言葉では「雇用の柔軟性」)などのみです。
選挙で「1票の重み」という言葉がありますが、私は労働において「1円の重み」というのもあると感じています。すなわち、正社員と非正規社員とでは、同じ1円でも重みが全然違うのです。非正規の稼ぐ1円の方が、ある意味、重く、ある意味では軽い。
要するに、派遣社員でカネを貯めるのは正社員とは比較にならない苦労を要求されるのです。その苦労を被害者は、母親に家を建ててあげたい!という一心で必死に耐えて来たのです。そんなカネを、変なチンピラ男らから簡単に奪われてたまるはずがない。だから被害者は惨殺される状況下にあっても、語呂合わせとも取れるウソの暗証番号を口走れたのでしょう。
この事件は、上記の事情を鑑みて、断じて許されざるべき悪質なものです。しかし被害者が1人では、あまり重い罰は望めない。……と思っていたところ、3人中2人に対して死刑判決が下されました。これは大変、賢明なる判決だったと思います。


2)ネットで犯行グループを募った主犯格の男は、自首をしたということで極刑を免れました。この件について被害者のお母上は泣いて抗議をされていました。そのお気持ちは当然だと思います。なぜなら闇サイトに「求人」を出した主犯格の男は、おそらく初めから、自首をすれば罪が減じられるという前提を頭に持っていたと考えられるからです。そうしてまんまと、一人だけ死刑を免れられた。これはお母上にすればとうてい許すまじきことでしょう。
しかし、客観的な立場にいる私から申し上げると、この判決によって「自首をすれば刑は確実に軽くなる」ということを世に示せたのが重要だと考えます。
もちろん殺人事件など一つも起きては困るのですが、今回の判決で「自首すなわち減刑」という認識が人々の間で強まれば、お蔵入りしてしまい時効を迎える事件が減る可能性があるのでは?と考える次第です。


以上2つの理由から、私はこの度の判決、誠に良かったという思いで聞きました。
しかし、亡くなられた元派遣社員の女性には、同じ非正規労働者の一人として、なんともいたたまれぬ思いを抱きます。


ちなみに今回の事件、被告は下記の通り:


主犯:住所不定、無職、川岸健治(42)=無期懲役
共犯:朝日新聞セールススタッフ、神田司(38)=死刑
   無職、堀慶末(よしとも)(33)=死刑


やっぱ新聞屋さんは怖いので、気を付けねばな、という思いもまた、強く持ちました。