It's Only チラシの裏 ~but I like it

つれづれなるままに書いてます。一番読まれないタイプのブログです。

Can't you see this old boy has been lonely

楡周平に気をつけろ!

楡周平『衆愚の時代』(新潮新書、2010年)を読みました。
「弱者の視点」から報道するマスコミ、「国民の生活が第一」などとぬかす愚かなる政治屋どもに一喝する啓蒙の書であります。


これは私、自分とは180度異なった立場の本なもので、違った視点を勉強する目的で読みました。ところがです。
これが意外に説得力大アリでございまして、拍子抜けさせられました。
例えば下のような話:


民主党政権交代した際、初登院して来た新人議員が、弱者の味方として「今日のネクタイは百均ショップで買ったものです」とか胸を張っていたと。
これを受け著者は、おまいな、と。
百均ショップで売られてるものってのはmade in Japanなのか?と問うのです。
そうじゃないだろう?と。
「雇用を守れというならば、『初登院です。日本の政治の担い手の一人として、今日は西陣織のネクタイをしてきました。伝統産業も苦境にあります。少しでもお役に立ちたい』。」こう言えとおっしゃるのです。
これは全くごもっともですよね。
かくの如く、この本には説得力が満ちあふれています。


しかしです。


楡氏は作家先生。その文章にだまされてはなりません。要注意です。


楡氏は「派遣切りは正しい」と明言され、その根拠として、国民が1円でも安いものを探して買う現状があるからだとしております。
安いものでなくては売れないのであるならば、企業は人件費を削る他ない。そこで派遣も必要になるし、それでもなお苦しければ派遣切りを行うのは当然の行為である、というわけです。
派遣労働を巡る問題に終止符を打ちたいのであれば、解決方法は1つ。それは国民が「寛大なる慈愛と自己犠牲の精神」とを持って、量販店ではものを買わず、日本で製造されたものだけを店の言い値で素直に買う、これだけだ、と楡氏はおっしゃいます。


しかし待ってください。
よく考えてみましたら私の勤務して来た会社、1つの例外もなく業界トップもしくはトップクラスの高値でサービスを提供していました / いますよ。その反面で経営者は、非正規社員らにまともな給与を支払わないのです。そして綺麗な愛人を社内に囲い、社長室をどんどん立派にリフォームして行き、その奥に豪華なダブルベッド部屋を作ります。愛人(元はアルバイトだったが現在では常務取締役などに収まっている)はそこへ時折呼び出され、何故だか終了後に髪が濡れ、全身からソープの匂いを漂わす「会議」を行うのです。
非正規社員が低賃金である理由は、国民がケチだからばかりではないですよ。うっかり騙されるところだった……。


楡氏はまた書きます。
「『弱者の視点』なんて言葉を簡単に口にされてしまうと、何やら企業というものは、ひたすら労働者から搾取するだけの強突(ごうつく)張りの集団のように聞こえる」。
しかし、お言葉ですが先生、これは全くその通りなんだからしょうがないじゃないですか!


というわけで、この本は誠に取扱注意な本でございます。
うっかりしてると丸め込まれてしまう。